16才の歯科処置(後編)

ジャッキーさんの歯科処置がはじまります。

ジャッキーさんは、16才とシニアのダックスさんですが、
歯周病が重度なのと、
麻酔前の検査で問題がなかったことから、
歯科処置に踏み切ることになりました、
というのが前回のお話でした。

→前回のお話はこちらから

麻酔をかけて、しっかり寝てもらったところで、処置開始。
まず、口の中をチェックしていきます。
起きている間は、痛みや怖さでなかなか見せてくれないので、
特に奥の方の歯は、麻酔がかかっている状態でないと
情報があまり得られないことも少なくないのです。
(喉に入っているのは、気管チューブで、酸素とガス麻酔薬が通っています)

下に簡単に解説を。

赤丸の白っぽいべたっとしているところは、歯垢と膿のように見えます。

右側(口の左側)の青丸のところは、
歯石で歯が合体しているように見えています。
わかるでしょうか?

歯周病になっていないわんこの口は、こんな感じです ↓

赤丸のあたりは、大きなものを噛み切るときに使う、大事な歯になります。
歯の根っこが深いので、一方で、おおごとになることも少なくない歯でもあります。

さて、ジャッキーさんの歯に戻ります。

これは口を開けた、下顎の内側です。
左右の大きいのが、左右の犬歯です。

犬歯とそのうしろの歯は、歯のねもと(内側)に、
歯石がどっしりとのっかっています。

犬歯の先は白いのですが、それが歯の本体。
ベージュっぽくみえているのは、全部歯石です。
犬歯の向こう側の歯は、完全に歯石で覆われています。

このような歯は、歯石で支えられてもいるため、
歯石を取ると、ぐらつき始めることがあります。
歯石をとることで、歯がとれてしまうこともあります。

いぬやねこの場合、歯周病が重度でも、歯そのものが溶けていることはあまり多くはありません(人のような「典型的な虫歯」はほとんどありません)

歯周病では、歯の周りの「歯を支えている顎の骨」が溶けます。
そのため、歯の根っこが露出したり、上の犬歯やその並びの歯だと、
「歯の根っこの穴が鼻の穴に通じている」なんてことも起きます。
歯周病が、くしゃみや鼻水の原因になることもあるのです。

こちらは、下顎の歯の歯石を取り除いたところ。
歯の根っこが露出して、歯根分岐部(歯の股)がみえています。
(この歯は、少し溶けてもいます)

歯石を取ることで、ぐらぐらになっていると、
このようになっていることも。。。
歯石が減ってきたことで、支えがなくなり、歯が取れかけています。

この歯がとれてしまったあとの穴は、鼻の穴まで通じていました。。。
歯を支えていたはずの、歯の周りの骨が大きく溶けていたのです。

きれいに処置したあとに、縫合して穴を塞ぎました。

溶ける糸を使用するので、抜糸は必要ありません。

抜くべきか迷った歯もあったのですが、
麻酔時間が長くなることで、ジャッキーさんにもしものことがあると困るので、
明らかに問題が出ている歯の抜歯を優先しました。

歯石の除去のあとは、二重研磨(荒研磨、細研磨)をして、
残った歯をつるつるピカピカにして終了です。

1時間半くらいかかりました。
ジャッキーさんも、ご高齢ながら、すごく頑張ってくれました。

午後6時頃にはお迎えにきてもらって、
静脈点滴を終了して帰宅です。
このときは、さすがにしんどそうでした…….

当日の夜はなかなか寝られず大変だったとのことでしたが、
翌日の朝にはごはんを食べてくれました。

翌日の病院でのチェックでは、身体検査も異常なし。
診察台でおやつもしっかりもぐもぐして食べられました。

歯科処置から3日後くらいからは、食欲が増してきて、
処置前よりも走ったり吠えたりするようになってきたのだとか。
目もきれいになってきたとのことで、
歯の処置を受けたことでこんなに変わるのか、と、
おうちの方がびっくりされていました。

口のニオイもすっかりなくなって、
やってよかったとのご感想をいただきました。

ちょうどこの記事を書いている8月の上旬に、チェックのため来院されました。

お口の中もすっかりさっぱり。
元気もよく、病院でもごほうびをペロリと食べてくれました。
歯科処置前には嫌がって暴れて見せてくれなかった口の中も、
頑張って見せてくれました。

術後

高齢のため、なかなか踏み切れないかとも思いますが、
頑張って乗り越えて、元気になる子もいます。

16才を過ぎたわんこ、ジャッキーさんのご報告でした。
(病院での写真撮影は、どうしても顔が緊張しがちですね)

麻酔下での処置や手術が必要になったとき、
シニアのわんこにゃんこであっても、
麻酔前の検査で特に大きな問題が認められず、
「乗り越えられそう」と判断したときは、
積極的に処置や手術を行なっています。

メリットとデメリットを天秤にかけ、
リスクも考慮しつつ、相談しつつ……になりますが、
その後の生活が、おいしく楽しく暮らしていければと考えます。

うちの子はどうかな? と思ったら、
お気軽にご相談ください。
一緒に「うちの子のベスト」を考えていきましょう。

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実はこの前編が更新されたころ、別の問題が起きてしまい、
現在治療中です(すでに回復中です)。

おうちの方から、「そちらの記事もぜひ」とおっしゃっていただいているので、またご案内させていただくかもしれません。