お腹が痛い。。。(脾臓にしこりが

腹部エコー(脾臓)

シニアのトイプードルの男の子。
春のはじめに、震えがあって、食欲がなくなってきた
ということで来院されました。

階段が上がれなくなり、そのうち降りるのも困難に。

触らせてもらうと、特に上腹部がとっても痛そう。

でも、食欲不振の他は、嘔吐もなく、下痢もなく。。。

食欲がなくなってきて、お腹が痛いとなると、
急性膵炎も疑わなくてはなりません。
(嘔吐も伴うことも少なくありません)

血液検査をさせてもらうと、
脱水と炎症のサインはありますが、
急性膵炎だと上がる数値が全くの正常値です。

お腹の痛みも強いことから、
画像検査(腹部レントゲン・エコー検査)を提案。

おうちの方の了承が得られたので、調べてみると
お腹のなか(脾臓)にしこりがみつかりました。

これはエコーの画像です。
青い点々でサイズをはかっている、黒い、丸っぽいところがしこりです。
サイズとしては、12x26mm 程度。
体の外からさわって、わかるサイズではありませんでした。
痛みが、このしこりからきているのであれば、ここから少しずつ出血が起きてる可能性もあります(大出血の兆候は、身体検査上もエコー検査上もみられませんでした)。

一方で、他に検査で痛みにつながるような異常は全く見つかりませんでした。

脾臓は腫瘍のできやすいところでもあります。
また、腫瘍が破れて大出血になる可能性もある臓器です。
わんこでの脾臓の腫瘍は、半分が良性、半分が悪性(がん)です。

全身を精査して、腫瘍が別の場所に転移している兆候も見られなかったので、手術をお勧めしました。

脾臓の腫瘍は、表面の組織がこわれて(自壊といいます)、お腹の中の膜が癒着していました。
この膜が、出血を抑えてくれていたのだとも言えます。

脾臓は全部を取ることが可能なので(ひとでは術後に問題がでるようですが、犬では大丈夫と言われています)、脾臓をまるごと摘出しました。

(苦手な方もいると思うのでちっちゃくしています。
 なにかくっついているところが癒着部位です)

臓器を取り出す大手術ではありますが、超音波の器械を導入していることもあって、
一般的な歯科処置とたいして変わらない時間で終わりました。

翌日はさすがに元気がなかったですが、
その次の日の午後からは、
おうちから持ってきてもらったドライフードをほとんど完食する元気。
(傷はまだ癒えてないのですが。。)

食べるわんこ

お腹がとっても痛い、という症状でも、
いろいろな原因があるのです。

確定診断のためには、詳しい検査が必要になることも少なくないのです。

(痛みがそこまでひどくなかったら、
 いったんは対症療法で反応を見ることもあります)

* * * *

とりだした脾臓は、病理組織検査というのに出しました。
腫瘍の正体を突き止める必要があるからです。

腫瘍の正体によって、今後どうしていくかを考えていくことになります。

さきほども書いたように、
脾臓の腫瘍は、半分が良性、半分が悪性(がん)と言われます。

退院の翌日、検査結果が返ってきました。

結果は、最悪の血管肉腫。

悪性のそのまた半分が該当するという、恐ろしい腫瘍です。
脾臓や肝臓の腫瘍から突然大量出血することがあり、それがもとで緊急手術になった子を何度もみてきました。
手術を乗り越えても、腫瘍の転移や進行がものすごく早いことが多く、それがもとで亡くなる子もいました。
心臓にできることもあり、まったく無症状で病気が進行し、ある日突然亡くなる(心臓にできた腫瘍が破裂=心臓に穴があくため)ということも起こります。

この腫瘍で、手術で切除したあとのもっとも積極的な治療は、
抗癌剤の使用になります。

治療のメリット、デメリットもお話しして、
おうちの方に決めていただくことになります。

抗癌剤にも種類があり、
一般的に、単剤よりも組み合わせたほうが治療の成績がよいのですが、
副反応も出やすくなったりもします。
抗癌剤は種類によって投与の仕方も違ううえ、
費用もバラバラなので、
それらも検討材料になります。

その子によって、ご家族によって、
どうしてあげたい、というのが変わってくるし、
最善も変わってくると思います。
それは全部相談しつつ、
おうちの方が納得する方向で決めていきます。